ナンセンス芸術の系譜と明和電機 山口勝弘

2018年5月2日、恩師である山口勝弘先生が他界されました。以下の文章は2004年に出版した「明和電機 ナンセンスマシーン」の冒頭に寄稿していただいたものです。明和電機に対する山口先生からのエールであり、いまでも読むと背筋がピンと伸びます。軟弱な自分の芸術家としての出発点で、いろいろな道標を示していただきました。本当にありがとうございました。

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ナンセンス芸術の系譜と明和電機

山口勝弘

人間にはその存在自体にナンセンスを目指す傾向がある。それゆえ20世紀の人間は、機械技術を発達させてきた。ひとつの野望に火がつくと限りなく拡大することは、アレクサンダー大王や中国・万里の長城の偉業を見ても明らかだが、20世紀の人間は機械文明を限りなく発展させ、映画『モダンタイムズ』においてチャップリンは、製造技術とその生産ラインの完成をナンセンスな営みとして表現した。

自著『ロボットアバンギャルド』(PARCO出版局/1985)に詳しいよう、機械文明の発展過程において、多くの芸術家たちがナンセンス・マシーンを発表してきた。ロボットをテーマにしたカレルチャペックの有名な戯曲『RUR』の舞台デザインを担当したキースラー。ロシア革命の中からは「レタトリン」という人力飛行機がデザインされた。イタリアの未来派では、バッラやデペッロによって「コンプレッソ・プラスティコ」と呼ばれる生物的造形が発表された。これらはロボット技術への夢を追求した、一種のナンセンスマシーンの系譜へとつながっていく。

さらに第二次世界対戦後の音楽の分野では、未来派の騒音機械の発表に続いて、電子音楽や具体音を使ったミュージックコンクレートなどが、さらなるナンセンス・アートの道を開いていった。また音楽は音を発生させる演奏行為を伴う。20世紀半ば頃から、この種の芸術的行為がパフォーマンスの分野に含まれていく。フランスのイヴ・クラインが空中へと飛び出したり、イタリアの マンゾーニ は女性モデルの身体に名前をサインし、作品とした。つまりナンセンスな行為が、美術の分野にも含まれるようになった。

あえて機械的技術を使って自壊する機械を制作したJ・ティンゲリー 、生物的な動きを見せるポル・ブリなどは、機械的技術を否定するナンセンスマシーンの一派といえよう。さらにアメリカには、機械そのものの自爆を見世物にした「メディアバーン」があった。英国ではジム・ホワイティングが、構造物から多くの自動人形吊り下げ、自分はその人形の動きの調整のために動き回るという作品を発表した。

かくして機械技術の発展の時代の中から、ナンセンス・マシーンとナンセンスな芸術行為が発生してきた。これら一連の現代美術史の背景を振り返ってみると、我らが明和電機の存在位置も明らかになるだろう。そこで最後に、明和電機の独創性として、次のことを指摘したい。

明和電機の強みは、彼らが制作したすべての作品が、最高水準の職人技(クラフトマンシップ)に裏付けられていることである。「ナンセンス=マシーン」という名前や土佐さんのポーカーフェイス、さらには軽妙な仕草の裏側に、そうした職人気質が隠れている点に、人々は気づくべきであろう。職人気質によって、作品の質が高い水準を維持しているからこそ、ナンセンスが生きてくる。そして、この極めて日本人的な気質があるからこそ、明和電機の パフォーマンスもまた生きてくるのだ。

世界中どこへ出しても通用する製品こそ、まさしく「Made in JAPAN」である。明和電機を世界的に有名にした理由もまた、そこにある。だからこそ「職人気質を忘れるな」という言葉を、彼らへの最後の拍手と共に捧げたい。

(明和電機 ナンセンス=マシーンズ:NTT出版 より) 

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