スマホの電池

スマホの電池がなくなり、途方にくれることがよくある。すごくある。いろいろ対策しているにもかかわらず、である。

まずやった対策は、バッテリーの容量を増やすこと。初代ギャラクシーノートという、iPhoneユーザーが見るとかならず「でか」と言われるスマホを使っているのだが、その内臓バッテリーを2倍にする「巨大電池」をアマゾンで見つけたので組み込んだ。

おかげでスマホの厚みも2倍。なんだかプラモデルの戦車を耳に当ててるぐらいのサイズになった。iPhoneユーザーには「でかでか」と言われるが、これだとまる1日スマホを使っても電池が無くならない。

もうひとつの対策は充電用のUSBケーブルを家のあちこちに仕込んだ。100円ショップに巻き取り式のUSBケーブルが売られてたので、10個ほど買い込み、寝室、台所、勉強机、ノートPCと、あらゆる場所に充電スポットを作った。

これだけやってるのに、電池が無くなるのである。なぜか?

原因はふたつある。ひとつは「充電ケーブルに差すのを忘れる」もうひとつは「電池がなくなりそうでも、大丈夫だいじょうぶとタカをくくる」。

これは致命的だ。砂漠にオアシスがあっても、そこに行こうとしないのだから。

これはたぶんスマホへの「いじめ」だと思う。エンジニアはしばしば機械をいじめる。耐久性を知りたいからだ。壊れたらなおす。そしてそこが強くなる。これだ。

なので、子ライオンを谷に突き落とす父性のように、無意識に僕はスマホをいじめてる。まだいけるやろ、と。

このマシンに対する、まだいけるやろ、で、僕は何度これまで車がガス欠になり、JAFのお世話になったことか。

根っこがこれだとしかたがない。スマホの充電マークがフルになってると、なに余裕かましとんねん、と目を細めてしまうこの性分をどうにかしないと、いつまでたっても、電池切れで困り続けるだろう。

白いシャツ

近くに高層ビルが二本、ぼんぼんと建ってから、ベランダに強風が吹くようになった。

洗濯物を干してたら、大好きだった大切な白いシャツがいつのまにか風で飛ばされて行方不明になっていた。

最初は気づかず、アトリエにおいてきたのかなと思った。でも冷静に考えて、そんなローテーションはない。認めなくてはならず、消沈。

と、思ってたら10日ほどたって、近くの道路脇で、発見された。汚れまくりで。

「泥まみれになって発見」と書きたいところだが、様子がちがってた。場所は高速道路の高架下の交通量の多い道。たくさんのタイヤの磨耗と排気ガスとアスファルトの削りカスがたまった場所。それらが混じると「黒」になる。

白いシャツは黒く汚れていた。

とにかくまずは見つかったことがうれしかった。ひどい汚れなので落ちるか心配だったが、入浴ついでにお風呂場でゴシゴシ洗うことにした。

せっけんを塗って、ひどくこびりついた場所から手揉み洗い。襟や袖口など、末端ほど黒い。一度洗ってすすいだら、つけていた洗面器の水は真っ黒。また洗ってすすぎを五回ほどくりかえしたら、無事にもとの白いシャツに戻り、安心した。

かたくしぼってハンガーにかけて干しなおす。湿ったシャツは五月の空気を吸って冷たかった。

よかったよかった。

おかえりなさい。

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ジューサーミキサー

朝は野菜ジュースをミキサーで作って飲む。小松菜とリンゴとトマトが入ったジュース。

素材はそれぞれ硬さがちがう。いきなり一番かたい林檎を入れると、ミキサーの刃が食い込んで動かなくなる。だから重ねる順番は、下から、「小松菜、トマト、リンゴ」の順。

少しの水を入れてスイッチを押すと、まず小松菜が粉々に砕けて水とまざり、緑色の液体層が生まれる。しかしそこから先にすんなり進むことはない。ただただ対流が起きるばかりで、トマトとリンゴの層まで砕けない。

そんなときはいったんミキサーのスイッチを切る。そして一瞬だけ入れる。すると、モーターの起動時の振動とトルクで、ほんのすこし全体がくずれる。これを「フラッシュ」というそうだが、そのフラッシュを間をおいてぐん、ぐん、と何度か繰り返す。そして最期にスイッチを入れっぱなしにすると、やがて頑丈だったトマトとリンゴの足場は崩れ、いっきにミックスが始まる。

これを見るのが本当に好きだ。なんだか快感だ。

おそらく大きくたとえると、これは「頭の中でアイデアがひらめく瞬間」に似ているのかもしれない。経験や勉強で、あたまのなかには小松菜やトマトやリンゴが詰め込まれる。でもそのままでは新しいものは生まれない。だからそこから熟考をはじめる。ああでもないこうでもないと、ミックスのスイッチを入れる。

しかし、ひたすら考えたからといって、いいアイデアが浮かぶとはかぎらない。考え続けるとか、エネルギーを使い続けるということが、ちょうど小松菜の液体層が安定するように、逆に対流のある「定常状態」を作ってしまい、そこから前に進めなくなる。自分では一生懸命がんばってるのに。

そんなときにスイッチを切る。これは「休息」だ。休息を入れると、別な視点からアイデア作業を眺めることができる。ふたたび起動するための活力もたまる。そしてふたたびスイッチを入れると、みごとに素材がまざりはじめ、ミックスジュースができあがる。スパークの瞬間だ。

朝は時間がなくて忙しいが、その快感が見たくて、ついついジューサーミキサーにちょっかいかけながら、ぼんやり見てしまう。