ひとりでなんとかする 梅コース

明和電機のライブは、その規模によって「松・竹・梅」の3つのコースがある。梅コースがもっとも小さいサイズで、「社長ひとりが持ち運びできる楽器で、ライブをする」というもの。

梅コース、たとえるならば「敵国にひとりでひそかに侵入し、ミッションを遂行して、帰国する」という、ミッションインポッシブルみたいなものです。とにかく「ひとりでなんとかする」というコース。

「松」とか「竹」などの他のコースは、工員さんや出演者も多いので、なんとなく「バンド感覚」であり、ミスがあってもみんなでカバーできるが、この「梅コース」だけは、ミス(機材故障など)があれば、即、「死」になる。なので、とて緊張するし、サバイバル感もあって、トム・クルーズの気持ちがよくわかる。

ただ、この緊張感はけっこう好きで、最小の機材で知恵をしぼって30分ステージをもたせるというのは、ミニマルで、明和電機のステージの原点みたいものを感じるので、演奏していて面白い。根がドMなのだと思う。

先日、この「梅コース」を静岡でのイベント「ストレンジシード2021」で行った。そのときこれまでやったことがないパフォーマンスをしたのだが、それが「梅コースの公開組み立て」だった。梅コースの機材はすべてひとつのスーツケースに入る。それをステージに持ち込み、10分以内で組み上げて音を出す、というもの。

梅コースの機材を説明すると上図のようになる。ドラムにあたる「スーツケース音源」、キーボードにあたる「ピアメカ」、そしてベースにあたる「PC」。このPCからはベースの音が出てます。これで3ピースのバンドになってます。

ちょっとマニアックになりますが、MIDIまわりを説明すると、音はあえてダサい「Microsoft GS Wavetable SW Synth」のベースをつかってます。往年の打ち込み野郎にはおなじみGM音源の流れを組むアレです。そしてこのPCは同時に「MIDI信号」も出してますが使っているシーケンサーソフトは、AppleⅡの時代からある「Master Tracks Pro」という古いやつ。とにかくサウンドデータはつかわずMIDI信号だけ出せればいいので、古いシーケンサーソフトでOK。(逆に最近のシーケンサーソフトは機能増えすぎて困る)。

いちおうPCは落としても壊れないLet’s note。ほんとにこのPCは丈夫で、ステージ作業でばかすか落下してきましたが、ちゃんと動きます。これ、ほんと現場では大事。マックだと無理。このPCからUSBで「MOTU」のMIDIインターフェースに入り、それが「MADI」と呼んでるMIDI信号を100Vに変換するインターフェースにはいってソレノイドを動かし、音を出します。この「MADI」はもう28年も使っていますが、壊れません。むかし松任谷由実のステージの照明コントロール用につくったものらしく(製造会社はすでに倒産)、ほんと丈夫。昔の電子機器はデジタル化されてないからでしょうね。ちなみにピアメカに入っているには、モジュラーシンセでおなじみDOEPFER のMIDIコンバーターです。

「梅コース」の組み立て手順は、まず電動楽器を組み立てし、そのあと「MIDI」の配線と、「電源」の接続と、最後に「マイク」のセットを行う。これを10分以内におこなうために、今回は機材のセッティングを見直して、配線の単純化や、機材のセットが簡単になるような道具を作りました。

静岡のイベントでは、一回目のライブはPCトラブルがあって12分くらいかかったが、2回目は9分30秒にだったのでガッツポース。このセッティング作業、もっと練習して無駄のない動きになっていくと、「茶道」みたいになるのかな?と思いました。あと、「10分以内に組み立てる」という、どうでもいい時間の制約があるだけで必死になっている自分に対し、「なるほど、これのすごいのオリンピックか」と思いました。

ちなみにイベントの当日の静岡は、竜巻も発生するほどの強風で、ステージの楽器も倒れるため、工員さん二人がステージでそれをささえてましたので、一人ではなかったです。自然の前では、どうにもなりませんね。

 

 

 

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